ワイルドで行こう
彼のティシャツも既にしっとり濡れていて、肌に貼り付いているのがわかる。首元も額も大粒の汗。長めの前髪もべっとり濡れて額に貼り付いている。それを軍手で拭うから、顔中に土。汗びっしょりの男の人、汚れていて。そんな姿で彼は琴子の側にいるけれど、全然嫌じゃない。会った時の男っぽい嗅覚にも驚かされたけど、彼ってどこか野性的。今日の彼も、とっても逞しくて頼もしい。
そんな彼に見とれていると、彼が雑草を掃除しながら急にニコリと琴子に微笑みかけてきたから、どっきり……。
「安心したよ、俺」
『なにが?』と、琴子は焦る気持ちを誤魔化すために、自分も軍手で顎の汗を拭った。
「ついこの間まではさ、お父さんがいなくなった悲しみから抜け出せていなかっただけだよ。俺らの周りでも片親になった奴ら結構いるよ。三十過ぎると少しずつその境遇を食らう奴らがちょこちょこ出てくるんだよな。琴子さんもちょっと早かったな。そいつらが言うんだよ。肉親を亡くすと『三年は駄目だ』って」
「三年……」
そろそろその三年が来ようとしているのは確かだった。
「それまではなにもしなくていいんだって、俺達は言い合う。いくつもそういう知り合い見てきたんだ。庭の世話していた主がいなくなった家は外観も荒れるよ。庭も荒れている。俺、琴子さんのこの家を見た時『一緒だ』って思ったわ。シノにもそれ話した。あいつも二十代で母親なくしてるからさ」
「そうなの」
最後に酔芙蓉の枝を切っている篠原さんの植木職人姿を遠く見る。
「すぐにわかるんだって。主が亡くなって活気が無くなった庭だとか、何か事情があって庭まで気配りが出来なくなった家とかはあっという間に庭の相が変わるらしい。それはそれで仕方がないその家の歩みの途中、荒れる時期もあっておかしくないとシノは言うね。その時期が過ぎ去って、庭が再び生き返るのがまた嬉しいんだってさ。だから、今回も直ぐに引き受けてくれたよ」
『そうだったんだ』、琴子は立ち上がりまた汗を拭う。篠原さん、自分とたぶん同世代。自分だけかと思っていた……。
そんな彼に見とれていると、彼が雑草を掃除しながら急にニコリと琴子に微笑みかけてきたから、どっきり……。
「安心したよ、俺」
『なにが?』と、琴子は焦る気持ちを誤魔化すために、自分も軍手で顎の汗を拭った。
「ついこの間まではさ、お父さんがいなくなった悲しみから抜け出せていなかっただけだよ。俺らの周りでも片親になった奴ら結構いるよ。三十過ぎると少しずつその境遇を食らう奴らがちょこちょこ出てくるんだよな。琴子さんもちょっと早かったな。そいつらが言うんだよ。肉親を亡くすと『三年は駄目だ』って」
「三年……」
そろそろその三年が来ようとしているのは確かだった。
「それまではなにもしなくていいんだって、俺達は言い合う。いくつもそういう知り合い見てきたんだ。庭の世話していた主がいなくなった家は外観も荒れるよ。庭も荒れている。俺、琴子さんのこの家を見た時『一緒だ』って思ったわ。シノにもそれ話した。あいつも二十代で母親なくしてるからさ」
「そうなの」
最後に酔芙蓉の枝を切っている篠原さんの植木職人姿を遠く見る。
「すぐにわかるんだって。主が亡くなって活気が無くなった庭だとか、何か事情があって庭まで気配りが出来なくなった家とかはあっという間に庭の相が変わるらしい。それはそれで仕方がないその家の歩みの途中、荒れる時期もあっておかしくないとシノは言うね。その時期が過ぎ去って、庭が再び生き返るのがまた嬉しいんだってさ。だから、今回も直ぐに引き受けてくれたよ」
『そうだったんだ』、琴子は立ち上がりまた汗を拭う。篠原さん、自分とたぶん同世代。自分だけかと思っていた……。