ワイルドで行こう
「庭の手入れを始められたということは、琴子さんとお母さんがお父さんの死を受け入れて、前へ歩き出して、お父さんが残した家を今まで通りにして生きていこうと思えるようになったんだと。安心したよ」
「私の周りに同じような境遇の人がいなくて……。私一人だけみたいな気持になっていたけど。私、やっぱり甘ったれなのね」
 また泣きそうになったが。でも今の琴子は直ぐに微笑みに変えられる。目の前で汗だくの彼も笑ってくれていた。
「誰だってそんなもんだろ。気にすんなよ。わかってくれない人もいっぱいいるかもしれないけどさ。誰もが通る道、我が身になってわかってくれる時も来るよ」
 うん、と琴子も笑顔で応えられる。
「あの、本当に有り難う」
「もうさ、それ、ヤメねー?」
 また不満そうな顔。怒っているような顔をする。でもだんだん琴子も慣れてきた。これもきっと彼にとっては『普通の顔』なんだって。
「俺もシノも、家族亡くして乗り越えようとしている知り合いの家を何度か手伝ってきただけだから。同じように気になっただけだって」
 また。特別じゃない。いつもやってきたことだって彼は言う。でもそれって……。
「滝田さんも篠原さんも、友人を大切にしてきたんですね」
「ふつーじゃねーの、それって」
 貴方達にはね。その普通がなかなか手に入らないこと多いと琴子は思っているけど、彼らには『普通で当たり前』だなんて羨ましい。つっぱっても仲間は大切――という彼ら独特の精神なのだろうかと思ってしまった。
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