ワイルドで行こう
 午後の作業に移って直ぐ、篠原さんの仕事が終わる。
 やはり彼らのスピリットなのか、『庭の他の掃除も手伝う』と篠原さんが言い出したのだが。
「お前んとこ、嫁さんがいま妊娠中だろ。自分の仕事終わったなら、もう帰れ」
 彼が急にきつく言う。それでも後輩の彼は手伝うと引かなかった。
 琴子と母もそれを知って、もう充分、有り難うと植木職人の彼をなんとか帰路につかせた。
 やっと後輩の篠原さんが帰って、彼もホッとした様子。お昼の作業再開、さらに日射しが強くなっているが、午前と同じく彼が日除けになってくれながらあと庭半分、二人で取りかかる。
「慣れてきたじゃん、琴子さん」
「慣れた頃に、もう終わりそうだったりして」
 二人で笑いあい、隣り合っている彼と顔を見合わせる。意外と近かったので互いにビックリしてしまう。
「俺……。新しいゴミ袋持ってくる……」
 梅雨の間に伸びに伸びた雑草もだいぶなくなった。琴子は照れて行ってしまった彼の背を見つめる。
 まさか。今日半日、雑草を片付けながら彼と語り合えるとは思わなかった――。変な気分だけれど、今日は彼といろいろ話せて良かったと……。
 あと僅かという時だった。空がふっと暗くなり、突然、大きな雨粒がぼつぼつと庭に黒い点を落とし始める。
「夕立だ」
 彼が慌ててビニール袋などを軒下に集める。琴子も手伝う。だが夕立というものは、あっという間に激しくなる。一分もしないうちに激しい水しぶきが散る大雨となって二人を襲った。
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