ワイルドで行こう
「貴方のこと何も知らないから。本当は流されちゃいけないと警戒した時もあったけど。でも今はとっても感謝しています。本当よ。信じてくれたら嬉しい」
「信じるって……。俺が信じてほしいと思っていたのに……。シノにも注意されたよ。相変わらず強引だって言われた。特に女二人だけになった家に近づいて、一歩間違えたら相手に都合の良いことばかりいって気持ち良くさせて騙す詐欺師のやり口にそっくりだって」
 後輩の篠原さんが。先輩の彼がこんなに気にしてしまう大きな釘を刺してくれていただなんて。しかも琴子も一度は疑った『詐欺師』! 
「あはは! そうよなのよね。実は私も『口が上手い詐欺師かも』と少しだけ思っちゃったもの」
 正直に言って笑ったら、彼がまた仰天した顔に。
「さ、さ、詐欺師じゃねーよっ」
 ムキになって怖い顔で怒るんだけれど、でも見慣れてしまった琴子は笑う。
「うん。詐欺師じゃないって、もうわかっています」
 そして彼の目を見上げた。
「ちゃんと信じています。たとえ、本当に騙されていても。母も私も貴方になら騙されても良いわねて言っているの」
 『お母さんまで。マジかよ』――。彼が目元を手で覆い、すこしだけ足下をふらつかせた。それだけショックのよう。
「俺、馬鹿だな。そんなふうに疑われるだなんて、警戒されるかも嫌がられるかもなんて、全然思わなかった」
「だから。貴方が『馬鹿正直』だって通じたんです。貴方が本気で心から助けてくれているんだって……」
 彼も黙ってしまった。また紫陽花を見て、機嫌悪そうにむくれた顔になった。詐欺師と疑われたことがそれだけ不服らしい。
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