ワイルドで行こう
「琴……っ子……を、いつ勝手に俺ん中で、脱がしたと、思う」
 彼も徐々に息があがっている。その問いに琴子は突かれながらそっと『わからない』と首を振った。
「言いたくないな……」
 言い出しておいて、聞いておいて。なにそれ。
 でももう琴子は言い返せない。彼の肩先で、ゆるく首を振って喘ぐことしかもう出来ない。でもそんな英児に愛されてなにも出来なくなった琴子の様子に満足したのか、彼が琴子の黒髪を狂おしい手つきで頭を撫でながら言った。
「桜の夜。お前の匂いを初めて嗅いだ後、すぐ――。俺……車に乗ってすぐ、お前を脱がしていたよ」
 思わぬ彼の言葉に、琴子はしがみついている彼の肩先で目を見開いた。
 『うそ』――。声にならない。
「馬鹿だよな。だからさ……ぼんやりしていて、泥を跳ねたんだよ……。頭真っ白だよ。イケルと思った女に泥かぶせるなんて。どんだけ俺、焦ったか知らないだろ。しかも逃げられてさ……。眠れなかったんだぜ……」
「うそ、ひとめ……なんてありえな……い」
 あの自販機で互いを見た時にだなんて信じられない。自分はそんな一目惚れされる女じゃないとわかっている。
 だけど、彼に激しく揺さぶられ愛されながら、琴子は絶対に揺るがない一言を聞かされる。
「一目惚れなんてもんじゃねーよ。匂いに決まってんだろっ」
 ――英児の腰が強く突き上げる。琴子の胸が一瞬で燃えた。
 高く突き抜けていく痺れみたいなもの。イクとかイカナイとかそんな身体的なことではなくて、突かれている性器から心臓から脳までバシッと走り抜ける『感情の閃光』みたいなもの。
 琴子にはよくわかる。今まで一度も良いと思ったことがない男の体臭をあんなに『イイ』と急に感じるだなんて――。彼の野生を琴子の本能が欲しているとしか思えない。英児も同じ。琴子の雌の匂いを嗅ぎ取ってここにいると言われたら――。琴子はそれを信じてしまう。
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