愛を餌に罪は育つ
秋の胸板に両手を置き、頬を摺り寄せるようにくっつけた。



『ご両親のお墓の場所も調べたんだが、どうする?』

「落ち着いたら、会いに行きたい。一緒に行ってくれる?」

『勿論。どちらのご両親にもご挨拶をしておかないとな』

「ありがとう」



私との事を真剣に考えてくれていて嬉しかった。


だけど純粋な嬉しさだけじゃなく、本当にこれでいいのかという葛藤もある。


事件や朝陽の事が落ち着いたらこの葛藤がなくなるかも分からない。


秋の手が髪の毛を伝い頬をかすめた。


そしてその手は私の顎を掬い、上を向かせた。



「ごめんね――」

『どうして謝るんだ』



私は首を横に振り、秋の手の上から自分の手を重ねた。



「何でもない。今の言葉、忘れて」



秋はフッと微笑むと、私の口を優しく塞いだ。


甘く、慰めるようなキス。


いつも秋は自分勝手なキスじゃなく、私の心を感じてくれているようなキスをしてくれる。


この人はどこまで私を溺れさせれば気が済むんだろう――その心地よさにはまってしまった私は、幸せに包まれながらも直ぐ隣にはそれを失う恐怖もあるんだと感じずにはいられなかった。






< 257 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop