ヒーロー
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それは、突然のことだった。


僕の携帯に、着信が入る。



ベッドに寝転がっていた僕は、のろのろとサブディスプレイを覗き込む。



“倉木ケント・090XXXXXXXX”



思考が止まった。
ピタリと。



ケントが電話。
僕に。
昔はよく電話をかけてきた、ケント。
メールが嫌いで、こっちがメールを送っても電話を折り返してくる、ケント。



僕の友達で、
あこがれで、
ヒーローだったケント。



大学に入ってからは、ほとんど電話したことなんてなかったけど。



「番号、変えてなかったんだ」



無意識に呟いた自分の言葉が、ケントとの繋がりを再確認させた。



僕は携帯を握りしめ、静かに通話ボタンを押した。



「…もしもし、ケント?」



『…よう、アユム』



電話特有のくぐもった声が、僕の耳に届いた。



『番号変えてなかったんだな』



「…うん」



僕と同じことをケントも言った。ケントもどこか、緊張気味の声だ。



「元気してた?」


『まァ、元気っちゃあ、元気』



元気なんて全然なさそうな声だった。



「…俺も、元気っちゃあ、元気」


『はは、そっか』



いつもは試合で一言、二言言葉をかわすだけ。小学校からの友達なのに、なにを喋っていいか分からない。



『…聞いた?俺のコト』



「…うん」



『そっか』



僕のヒーローだったケントは、電話の向こうで弱々しくハハハ…と、笑っていた。
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