わかれあげまん




「柚だって感じたんだろ?あの晩。…」


「え、…え!?…感、じたって…」


柚は泣きだしそうな瞳を右往左往し、震える声でそう呟くしかできなかった。



だって、…


あの夜はあたし、ほんとにべろべろに酔っ払ってて…

何も、記憶に…



「へえ…ほんとに覚えてないんだ。」


少しムッと来ているのか分からないが、渡良瀬は声を低めて言い、目を細めて腕の中の柚をじっと見つめた。


「気持ちイイって何度も叫んでたくせに♪」


「う、うそぉっ!」


そう叫び、カアっと急速に温度を上げる柚の顔。


渡良瀬はその羞恥を煽る様に片方の口角をぐいと持ち上げて見てそして。


「…じゃ、思い出してみる?…今ここで…」


怯えたように見開いた瞳に、突き刺さる渡良瀬の視線はまるで飢えた狼のように獰猛なのに。


なぜだか柚の思考活動がまた緩慢になりそして。


愛してるよ。…と微かに届いたその声。


その瞬間、まるで感情に直接麻酔を打たれたようにフワフワした心地よさに、とうとう柚は自ら考える事をやめてしまった。



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