わかれあげまん
自分の下宿のパーキングにゆっくりと車を駐め、押し黙ったままエンジンを切った。
静寂が、それとは真逆に哉汰の鼓膜を押しつぶそうとするかのように、痛みを伴い迫ってきた。
その静寂の奥から悪夢のように蘇る、父親と恋人の声。
『よくもしでかしてくれたよ…俺の顔に泥を塗るようなマネをな。』
『お前は藤宮哉汰だぞ?藤宮静司の一人息子なんだぞ!?』
『お願い、カナタ!…フィレンツェでパパに会って!』
運転席に座り込んだまま、哉汰はハンドルを強く握りしめた。
憤りが眉間を熱くする。
フロントガラスの向こうの夜景が、滲んだ。