わかれあげまん
* * *
意味不明とも取れる衝動的な哉汰の行動に戸惑いながらも、柚はおとなしくそれに従った。
無言でバンを走らせる彼の横顔は深刻そうに引き締まっていて、柚はそれがたまらなく不安だった。
「藤宮くん、…」
「…。」
「何か、あったの?」
小声で尋ねても答えようとせず、哉汰は黙ったまま車を下宿のパーキングに滑り込ませた。
辺りをはばかるように視線を巡らせながら助手席のドアを開け、柚の腕を掴むとすぐに階段を駆け上がり、自室に押し込んだ。
「…座って。」
張り詰めた声で言いながら、柚のコートを脱がせ、居間のテーブルにいざなう哉汰を、柚は困惑の目でみた。
「でも…」
「いいから、ホラ。」
一瞬だけぎゅっと唇を噛んでから、
「ダメだよ。…ルチアちゃんに悪いよ。」
とうつむいて呟いた柚に、哉汰は一瞬だけ目を丸くした。
「…大丈夫だから。」
フ。と柔らかく笑んで手を差し伸べた哉汰に、痛いのかくすぐったいのか分からない感覚が込み上げ、柚は赤らんだ頬をさらに俯かせた。