わかれあげまん




「柚。」



あ。



藤宮くんが、呼んだ。



あたしの名前を…初めて。



「柚。」


頭上でまた低く呼ばれ、その心地の良さに恍惚となりながら柚は答えた。


「…はい。」



「手遅れかもしれないけど、…でもこれだけは、ちゃんと言っておきたい。」



「……」



「絶対、大切にする。」



またこぼれ出た涙をそのままに、ゆったりとした呼吸を繰り返す哉汰の胸にそっと押し当てた耳に、最後に届いたのは。



「信じて。」


という甘い囁きだった。











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