わかれあげまん


「ねえ柚。あなた…美大も、絵も自分が好きで決めた道でしょう?それをそんな風に急に辞めるだなんて。一体何があったの?」


「……」


「何かよほどのっぴきならない理由(わけ)があるんじゃないの?」


「お願い。今は何も聞かないでお姉ちゃん。」


柚は眉をしかめつぶやいてそして。




「とにかく…片がついたら、あたし今度こそちゃんと、お父さんとお母さんの理想の娘に戻る…お姉ちゃんみたいな弁護士になるのはとても無理だけど、お姉ちゃんの下で修業積んで、法律関係の仕事ができるように頑張るよ」


柚は早口にそれを告げ唇を噛みしめると踵を返して玄関に向かった。


「ちょっと外の空気吸ってくる」


「待ってよ、ねえ、…柚」


不安そうに呼び止めた姉の声は聞こえなかったふりをし、柚は立ち上がって事務所の扉を押し開けた。




* * *



ホント言うと…


お姉ちゃんの周りにいる人たちは、有名な弁護士や税理士、公認会計士や…凄い肩書きの、頭のいい人ばかりで苦手…。


父さんや母さんにも、また昔みたいに何かというと姉妹で比べられる日々が始まるんだろう。


昔はそんな毎日がいやでいやで、


あたしにはあたしのやり方があるんだって、周囲に肩ひじ張って子供みたいに反抗して…


そうやって必死に守ってきた「自分」の居場所さえも。


もう、犠牲にしてもいいって思える。


たとえお父さんやお母さんに、自分一人で決めた身勝手な道を、今度は志半ばで投げ出した、どうしようもない不出来な娘だって思われても。


でも、いいんだ。


自分の事なんて、もういい。


藤宮くんさえ…


彼さえ幸せになってくれるならそれで、いいんだ。






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