わかれあげまん
伝説のオンナ
* * *
「ごめんね?…急に仕事場に来たりして。」
焦げ茶のスエード調のソファにかしこまって腰かけた柚は、こちらに背を向けデスクに座っている女性に申し訳なさそうに声をかけた。
回転椅子をクルリとさせ、肩まで垂らした上品で清楚な黒髪を揺らし振り返った女性はにこりと微笑んだ。
「謝るなんて水臭いわよ、柚。私たち姉妹でしょ?」
「お姉ちゃんが忙しいのは分かってたんだけど…」
「いいのよ。あんたが実家に戻りにくいのも当然だもの。父さんと母さんのあれだけの反対を押し切って行った美大を、今度は辞めてきただなんて。そんな事いきなり聞いたら、あの人たちひっくりかえっちゃうかもよ」
そう言って可笑しそうに喉を転がし笑う姉に、柚は苦笑いを返した。
「とにかく急すぎてまだ下宿もそのままだし…一段落してほとぼりが冷めるまで、事務所(ここ)に住まわせてくれる?あたし、お姉ちゃんの事手伝うから…」
「もちろん。しばらく父さんたちには内緒にしていてあげる。しっかり働いてもらうわよ?柚。」
言いながら姉は柚と少しタイプの違う、聡明な美しい顔をふいと曇らせた。
「だけど…」