わかれあげまん
ぐらり力を失った身体が、哉汰の胸に抱きとめられた。


「ふえ…っ」


露呈した心を偽る術はもうなかった。


嗚咽し始めた柚を、哉汰は笑み崩れ抱きしめた。


「救おうとしてくれたんだよな。親父の傲慢な手引きや、渡良瀬とルゥの仕組んだ罠から、俺を」


「…」


「だからもう、俺とは二度と会わないつもりだった…?」


静かに諭すような口調で言ったあと、哉汰は、フ。と溜息にも似た笑みをこぼした



「そんなこと俺が納得すると思うの?」


「…っ…っ」


「余計なお世話だっての。テメエのケツ位テメエで拭かせろ」


乱暴に言い放った言葉とは裏腹に、哉汰は腕の中で泣きじゃくる柚の背中を優しく幾度も撫でた。





* * *




小一時間ののち。


「…お騒がせしてすいませんでした。」


柚の姉の法律事務所のソファに座った哉汰は佇まいを正し、深々と頭を下げていた。


「大学での騒動も、自ら出した退学願いも、全て彼女が俺の為にしでかしたことなんです。…今の俺には彼女を取戻し守る責任があると思ってます。…」


「詳しいことは分からないけどとにかく。…」


茶卓に乗せた湯呑をことりとテーブルに置きながら、柚の姉は穏やかな瞳を哉汰に注いだ。


「あなたに妹を迎えに来てもらって助かりました。…かくまう覚悟はしてたけど…私も先の事を思うと気が重かったの。…あなただって知ってるものね?柚。両親の性格。」


哉汰の隣に座りハンカチを目頭に押し当てたまま、柚はかすかにうなずく。






< 373 / 383 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop