わかれあげまん
「あんたは…俺と“別れる”つもりで、行方をくらましたんだ。」
「…っ!!」
「自分が“わかれあげまん”だから。…」
「ちがう…」
かあっと温度を上げる柚の頬を、哉汰の両の掌がそっと包み込んだ。
「ごまかしても無駄」
「…」
熱の籠った黒い瞳が、柚の心の奥深くまで刺し抜いてくる。
耐え切れずに瞼にまた涙がこみ上げても、哉汰はためらわずにそれを告げた。
「…熱に浮かされて朦朧としてたけど…あの夜、俺はあんたを抱いた」
「!」
「抱き合ったんだ。」
「ちがうっ」
「違わない…。思い出したんだ。」
愛を求め背中に回された、たおやかな細い指。
熱っぽい呼吸。
蕩けるように柔らかい、白い素肌。
せめぎ立てられ耐え切れず幾度もこぼれた、自分を連呼する愛らしい声も。
「全部…覚えてる。」
その感触を確かめるように、あてがわれた掌が優しく頬を撫でた。
柚はわなわなと肩を震わせ、小さく咽ぶ。
「ずるい人だな。俺に抱かれて…離れようとするなんて。」
こらえきれなくなって眼を逸らそうとしても包み込まれた掌がそれを許してくれず、柚はしゃくりあげながら身体の力が抜けるのを感じた。