わかれあげまん

「藤宮くん、だったかしら。…」


「はい」


「バイト仲間ならあなたも気づいているかしら。柚は私とは違ってマイペースでね。だから余計、厳格で堅実な両親の風当たりも強いの。」


「ええ。彼女から少し聞いたことがあります。」


「自分で強引に決めた進路を今度は自ら辞めてきたなんて知れたら、きっと大変なことになってたわ。この子のこの先の人生も惨めになってたと思うの。」


「お姉ちゃん…」


真っ赤に充血した眼を姉に向ける柚を見て苦笑すると、姉は続けた。


「あなたが羨ましいわ~。柚。」


「え?」


「私は親の言うままに弁護士になったけど…そうすることで結局楽していた気がするのよね。辛いことも多いかもしれないけどでも、あなたみたいに自由に、自分の思うままを貫いて真っ直ぐ生きるって本当に素晴らしいと思うわ。」


「…」


「こんな風にわざわざ遠くまで迎えに来てくれる、優しくてカッコいい彼もいてさ。」


「えっ!?」


柚はぎょっとして隣の哉汰を見た。


平然と前を向き綺麗な微笑を浮かべている哉汰に、ボワッと音をたてんばかりに柚の顔から火が出る。


ちらりと視線を柚に返した哉汰は口元をこぶしで抑えプハッと吹き出した。


そんな二人をきょとんと見比べる姉だったが。


「はいはい、そうですか、ごちそうさま。…もういいでしょ?柚。私もうお腹いっぱいだから。」


冗談交じりに言いながら姉はクスクス笑った。



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