わかれあげまん
所長と哉汰が面談をしているすぐ脇にあるキッチンで、柚はやかんにお湯を沸かしだした。
すぐ背後の長机で向き合って話し合っているんだから、内容は丸聞こえだ。
「えーと。どこまで話したっけ。あ、そうそう、君の担当は色彩構成とデッサンてことで、お願いするよ」
「分かりました」
「あ…れ?藤宮くんてもしかして、お父さんの名前、静司さんじゃない?」
履歴書を見て何かに気付いた所長が、訝しげに哉汰を見てそう尋ねた。
「……」
少し不自然に間を空けてから、哉汰は静かに
「ええ」
と低く答えた。
「どわ!!やっぱ!?じゃあの有名な建築デザイナーの藤宮静司さんがお父さんなんだ!?」
いきまく所長の声に、柚は思わず振り返った。
藤宮静司という名は柚自身は初めて聞いた名だったが、所長のエキサイト振りを見れば、建築デザイン界では相当名の知れたデザイナーであることは想像できた。