わかれあげまん




所長と哉汰が面談をしているすぐ脇にあるキッチンで、柚はやかんにお湯を沸かしだした。


すぐ背後の長机で向き合って話し合っているんだから、内容は丸聞こえだ。


「えーと。どこまで話したっけ。あ、そうそう、君の担当は色彩構成とデッサンてことで、お願いするよ」


「分かりました」


「あ…れ?藤宮くんてもしかして、お父さんの名前、静司さんじゃない?」


履歴書を見て何かに気付いた所長が、訝しげに哉汰を見てそう尋ねた。


「……」


少し不自然に間を空けてから、哉汰は静かに


「ええ」

と低く答えた。


「どわ!!やっぱ!?じゃあの有名な建築デザイナーの藤宮静司さんがお父さんなんだ!?」



いきまく所長の声に、柚は思わず振り返った。


藤宮静司という名は柚自身は初めて聞いた名だったが、所長のエキサイト振りを見れば、建築デザイン界では相当名の知れたデザイナーであることは想像できた。


< 57 / 383 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop