魔界動乱期
【は……離さぬか……】

妖狐はラウドの手を払うというよりは、更に強く握り込む。
言葉とは裏腹のその行動と、妖狐の赤みを帯びた表情を見たラウドは、えらく動揺した。

「あ!い、いや、お前が離さんから……」

【はっ!?】

妖狐は無意識にとっていたその行動に気付き、焦って手を払いのけた。
そして再びラウドと逆方向を向き、大声を出す。

【早く去れ!!】

「う、うむ。じゃあ、またな」

【あやつ、ぬけぬけと‘好き’などとよく言えたものだ!……ラウドは優しい女が好きなのか】

ラウドが去った後も、妖狐はそんな言葉をぶつぶつと繰り返していた。

「あ、あの行動と表情はどういう意味だ……?」

その後、ラウドはギルシャスに呼ばれ、あることを伝えられる。

「え!?私がギルシャスの軍団長に!?」

「そうじゃ。お前はもう実力ではこのサンニールを越えておる。式はまだ先だが、これは決定じゃよ。のう、サンニール?」

「ラウドよ。魔族とは、戦いを本能とする生き物だ。だが、幼い頃のお前は魔界一と言える程の臆病者だったな」

「それを変えてくださったのは、サンニール将軍の言葉です。戦うということは、大切な者を守る事だ、と。その言葉を、私は今でも胸に刻み込んでいます」

サンニールはニッコリと微笑んだ。

「お前が大切な者のために勇気を振り絞った結果だ。臆病者が絞り出す勇気は、魔界において最も誇り高いものだと、私は思う。弟子が師を越えてくれる事は、最高の喜びだ」

「ありがとうございます、サンニール将軍」
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