ブラッディマリー
ヒュルン、と風が身体の脇を通り過ぎる。
時折舞い上がるビル風は生ぬるく、朝止んだばかりの雨はまたすぐに降り出すことを予告している。
カツン……と革靴を一歩踏み出し、下を流れる車のライトを眺めた。
漆黒の髪が揺れる隙間から、紅い瞳は摩天楼を見下ろし、にぶい輝きを放つ。
ビルの屋上のその切っ先に佇んでいたのは、白城澄人。
昨夜和の血を啜って潤した喉は、また既に渇いていた。
毎日訪れるこの渇きを癒す為の≪保存食≫として用意した女は余る程いる。が、欲しいのはそんなものではない。
澄人には、腑に落ちないことがあった。
和の名を聞いた時、まさかとは思ったのだ。黒澤という姓など、珍しくもないと。けれど昨夜和の首を咬み、裂いたそこから口にした彼の血は──黒澤のものである、そういう味がした。あの血は確かに人間のものであったし、今の黒澤にはかつての血は流れていない筈だ。
だのに、何故……。
判らないことなら、それを知っていそうな人間に確かめればいい。澄人は遥か下を流れる光を見ながら、にやりと口角を上げて笑った。
.