ブラッディマリー
和自身、それほど嘘であって欲しいこと──否定したくなるようなことだったから。
万里亜が、自分に後ろから刃物を突き立てるなどということは。
あまりの熱さに火でも点いたのかと、和は虚ろな意識のまま熱の中心に手をやる。すると、指先からすでにヌルリ、と滑った。
サテンの生地とはいえ、こんなに滑るものだったか、と考えながら和がその手を見ると、真っ赤な血で濡れている。
出血のせいでこんなに熱いのか、と思った瞬間、和は腰から力が抜けていくのに耐えられず、フラフラとサイドテーブルに縋りついた。
その肩を、敬吾の手が支える。和が顔を上げると、硝煙のにおいのする父親が心配そうに自分を見ていた。
「和、しっかりしろ。そのくらいの傷、お前にはどうということはない」
「簡単に言うなよ……」
自分がすでに人間の身体ではないことをようやく思い出し、和は振り返る。
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