ブラッディマリー
 

 俊輔を殴っても足りないであろう気持ちが、内側から激しく胸を叩く。



 目に焼き付いて離れない。母が、赤く染まった湯船に沈んでいた、あの光景が。



 それが、誰かの手によるものだった、だと?


 それが──この男の。



 考えるよりも先に、身体が反応していた。


 ざわ……とうなじから鳥肌が立ち、髪が逆立つような感覚を覚えた瞬間、牙が自分の口唇に触れた。


 俊輔に向けられた怒りが、和の本能を呼び覚ましていた。そんな和を見て、俊輔は小さく笑う。



「俺を殺すか? 白城のぼうやなら腹も立つが……お前になら、構わない。が、話くらいは聞いてくれ。でないと、君子が浮かばれない」



 静かな俊輔の声色すら、今は疎ましい。


 俊輔の胸倉を掴んだまま、和は呼吸を妨げる程の怒りに声すら出せずに動きを止める。今動いたら、間違いなく俊輔の喉を裂く。

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