ブラッディマリー
 


「お、和。今日もありがとな」



 売れないホストのような格好をした、30過ぎくらいの男──石垣俊輔。


 バー“HEAVEN”。俊輔はこの店のオーナーだ。



 和はおはよ……と呟くと、浮いているレモンを指先でひょいとすくい取り、果肉をかじる。レモンの酸味と強い香りが、口の中に広がった。



「またそれか。腐る程酒あんのに」



 俊輔が肩を竦めると、和はそれをちらりと見る。



「ブランデー飲むと頭痛くなるんだよ」


「はっ、まだまだだな」



 体質の問題だというのに、子ども……とからかうような俊輔の背に、レモンの成れの果てを投げ付けてやろうかと思った。


 が、ここの準備と簡単な接客だけで食べていけるだけの給料を出してくれるオーナーに対してそれはあまりにもあんまりだと、和は思い止まる。



「今日は雨だから暇かな。和、今日はそこでぐだぐだしてて構わないぞ」


「あいよ」



 和は薄くなったグラスの中に、焼酎を足した。グラスの中で、焼酎と水がぐるりと混ざり合う。それを見ながら和は、新しい柿の種の小袋を開けた。




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