ブラッディマリー
 

 和が訊ねると、俊輔は「男のロマンだよ」と冗談めかしてはぐらかした。


 半年付き合っている和にさえ、未だに俊輔の存在はミステリアスだ。



 俊輔は濡れた手をおしぼりで拭くと、湿った指先で煙草を軽く摘んだ。



「もう、今日は閉めるか。和、オープン札ひっくり返して来てくれ」


「了解」



 客が出入りした為、わずかに泥で汚れた床を見ながら、和は息をついた。


 明日は早めに来て、水で洗わないと。


 そんなことを考えながら、和はドアを開けた。ドアの上のベルがチリン、と小さく鳴る。


 開けた途端吹き込む湿った風に和は顔をしかめながら、手を伸ばして札を“Close”にひっくり返した。


 顔をひっこめる前に、ちょうど街灯が当たって明るい筈の階段が薄暗いことに気付く。



「?」



 雨が顔に当たらないよう手を翳しながら、和はそっと見上げた。



 ──びしょ濡れの人間が、階段の昇降口の塀にもたれて立っている。



「……?」



 客ではないことは、その様子からひと目で判った。けれど逆光で、姿かたちまでははっきりと判らない。いつもなら、見過ごすであろうその光景。


 頭の隅に燻る痛みが、少し和を苛立たせる。濡れるのを覚悟で、和は階段を軽やかに駆け上がった。

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