十五の詩
「──生徒総長なのに…」
特に責め立てるようでもない口振りで、ユニスが呟く。ヴィンセントは肩をすくめた。
「こういう状況下の寮則なんて破るためにあるようなものだ」
「──」
「俺はお前が良くなればそれでいい」
ヴィンセントは時折ユニスがひとりで空の見える場所や、木々の生い茂る場所で本を読んだり眠っていたりするのを知っていた。
それは体調が思わしくない時が多いのだということも。
精霊が自然界に附随するものであるように魔力もまた自然の力である。魔力の強すぎる影響が身体に及んでいる時は、自然の中にいた方がいいのだ。
ユニスは吸い込まれるように星空を仰いで、「ありがとう」と口にした。
「一度、真夜中にここで空を見られたらと思っていたんです」
屋上の鍵は生徒総長で寮長でもあるヴィンセントにしか持てない特権だ。
「具合がわるい時ならいつでも言え」
ヴィンセントはそれが当たり前であるかのように言う。ユニスは嬉しそうな表情を浮かべた。ヴィンセントの手をとる。
「お、おい…?」
「ふふ」
ヴィンセントの足元が急になくなった。否、足がついていたはずの屋上の床から離れた。
ユニスが自分の手をとったまま、空に浮かんでいるのだ。無論自分自身も。ヴィンセントは狼狽える。
「おい、ユニス!お前──熱があるんだろう」
「平気です。薬はのみましたから」
「そういう問題か!」
ユニスは聴いているのかいないのかふわりと上昇する。星空に近いところに行きたいのだろうか。
飛空魔法の使えないヴィンセントには空にいることが初めてのことだった。だが堕ちるかもしれないという恐怖感はまったくない。
ユニスの飛空能力が極めて安定しているのか、手を繋いでいる自分にも落ち着いていられる安心感があった。