十五の詩



 ヴィンセントはめずらしく和らいだ目になった。

「お前もいいキャラだよ」

「え?やっぱり?そうでしょうともー」

 のほほんとしているレナートを見て、これから自分たちはどんな大人になるんだろうかという思いがよぎってゆく。

 明るい未来ばかりを望むわけではないけれど、それを失わせない人間にはなれるのだろうか。



     *



 休めと言われて寮の部屋で化学の本を広げていたユニスだったが、集中出来なかった。

「…気が散っていますね、マスター」

 ユニスのベッドの上で編み物をしていたユリエが言う。

 ユニスは淡々と並ぶ構造式を指でなぞっていたが、あきらめたように顔をあげた。

「──出かけます」

「お身体は大丈夫ですか?」

「このままでいると病気になってしまいそうなので」

 ユリエは編み物を片すと「苦しくなったらお呼びを」と告げ、姿を消す。

 精霊が必要以上に主人のそばにいないのはある意味主人を護るためでもある。

 精霊や自然界に調和しすぎると、その分人の感覚と合わなくなって拒絶反応を起こしてしまうからだ。

(そういえば薬を買いに行かなければ──)

 昨夜飲んだ分で薬を切らしてしまっていた。

 飲んでいるのは鎮痛剤である。魔力そのものを抑える薬や発散させてしまう薬は体質に合わず、症状を余計悪化させてしまったからだ。

 お酒が気分が良くなるかもしれないと勧められて飲んでみたが、アルコール類も合わなかった。

 一定量のお酒を飲むと眠ってしまうのだ。

 眠ってしまうだけなら問題ないのだが、アルコールが身体に作用している影響か、周囲の物に異変を起こしてしまうのだ。

 普通浮かんでいるはずのない物体が浮かぶとか、普段身体の中にとどめられているはずの魔力が、周りの物にまで影響を及ぼすようになってしまうのである。

 そういう理由で解熱作用と鎮痛作用のあるシンプルな薬の方がユニスには良かった。



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