十五の詩
部屋に戻ってきたユニスは机の前に座ると、引き出しにしまっていた小さな物を取り出した。
形見の指輪。
何気なく薬指にはめてみると、昔は自分の指には大きかった指輪がきれいにはまった。
(レミニア先生の手はこれくらいだったのかな)
眺めているうちに、気がつくと涙が頬をつたっていた。──何をしているのだろう。
ドアが開く音がして、少し遅れてヴィンセントの声がした。
「──ユニス?」
ユニスは指輪をはずすと涙をぬぐった。ヴィンセントはすぐに様子がおかしいことに気づく。
「…何かあったか?」
「何も」
ユニスは机に向かったままヴィンセントを振り返りもせず、はずした指輪を握りしめた。
「昔のことを思い出していました」
「……。さっき言っていた好きな人のことか?」
「はい」
ユニスは積極的に自分のことを話したがらないタイプである。ヴィンセントは、俺は人のことはあまり詮索はしないが、と言った。
「ひとりで抱え込むのも良くないだろう。話したければ話してくれて構わない。聞くだけならできる」
「…はい」
ユニスは素直に返事をしたが、それに続く言葉はなかった。
話したくないのか、まだ言葉に出来る思い出ではないのか──。
ヴィンセントはそれ以上踏み込むこともできず、自分の机の前に座った。
ややしてユニスの小さく呟く声が聴こえた。
「誰かのために生きる人のことを好きになって、その人が自分のために死んでしまったら、私はそれを幸せだとは思えません」
ヴィンセントはそこではじめてユニスが泣いていることに気づいた。
表情には何の感情も浮かんではいない。涙だけが静かにこぼれ落ちて──。
「何故死んだ?」
ヴィンセントはぶしつけに聞いていた。そう聞かなければという衝動にかられていた。ユニスは問われるままに答えた。
「先の大戦です。私を妖華から護って──」
「妖華?ユニス、お前…」
大戦で妖華に関わった人間で生きている人間がいるのか──ヴィンセントは信じられないような気持ちでユニスを見た。