十五の詩
ゲートをくぐると懐かしい故郷だった。
「…おお。すごい技だな」
無精髭を生やした、鍛え上げられた体格の男が感嘆を漏らす。
姿はなく透明なゲートの声が、男の言葉にクスクスと笑った。
「私の力ではなく、マスターの力です」
「そうか」
「ノール様によろしくお伝えくださいませ」
「承知した」
ゲートになっていた精霊ユリエに短く別れの挨拶を済ませ、歩き始める。リオピアの王宮はすぐそこだ。
男の通り名は、イアン・ガレット。名は亡き王ユリウスから賜った。
本名は捨てたと語るその男は、自らの過去について語ることはない。
王宮の門の前に来ると、イアンは警備の者に声をかけた。
「ノール様にお会いしたい。会わせてくれ」
「許可証は?」
「ない」
複数の警備の者は、眉根を寄せる。
ノール・メイエといえば王位継承者であるユニスを除いては、現時点ではリオピアで最も位の高い人物である。
しかし、許可証を持たない男の態度は堂々としていて、会えないはずがないとでもいう様子だ。
首を傾げながら、警備の者のひとりが厳しく詰め寄った。
「許可証を持たぬ者は、通すことなど出来ぬ。ましてノール様にお目通りを願い出るなどと。お前は何者だ?」
「何者かと聞かれると弱るねえ。ああ、一応こういうのなら持っているんだが。信じてもらえるのかね?」
ごそごそと懐から書状を取り出して見せた。数人の警備の者がその書状を覗き込み、息を呑んだ。
「──ユ、ユニス様の直筆…?」
書状にはその者をノールに会わせて欲しいという旨が書かれており、流麗な筆跡でユニス本人のサインが入っている。
「そのサインを書かれたお方がノール様宛にと書かれたものがこっち」
もうひとつ手紙を取り出して見せる。その手紙の方は綺麗に封をされていて、時折ユニスからノール宛てに届くそれと同じである。
正式な印の入っている許可証ではないものの、これは──。