美しいあの人

ずっと待ってる

あたしはカーテンを閉じてから、
ベッドルームへ入って枕元に置いてあるハガキファイルを取り上げる。

ベッドへ寝転んで、この三ヶ月の間に送られて来た祐治からのハガキを読みふけった。
「エリへ。急にいなくなってしまってごめんなさい。
役者になりたいと思い立ち、宣材写真を作ってあちこちの劇団へ潜り込もうとしていました。
とりあえず私は元気です。
仕事もなんとかやってます。また連絡しますね」
このハガキの消印は札幌だった。

「エリへ。原稿だけはなんとか書いています。
作家は一定箇所にいなくてもできる仕事だというのがよくわかりますね。
読んでくれていますか? 私には役者は無理なようです。
エリのところへ帰りたいと思うけれど、
なんだか叱られそうな気がしてまだ帰る勇気がでないでいます。
怒ってますよね。また連絡しますね」
このハガキの消印は青森。

「エリへ。暑い日が続きますが、身体を壊したりはしていませんか?
エリがいないとやはりうまく書けないような気がしています。
離れてなおさらそう思うのです。
エリは待っていてくれているだろうか。
それがとても心配です。また連絡しますね」
このハガキは秋田から。

それぞれの観光スポットの絵ハガキに、綺麗な文字で書かれた弱気な文章。
どう考えても悠々自適に観光旅行を楽しんでいるようにしか見えないのだが。
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