美しいあの人
祐治が小説を書くのに専念したいから会社を辞めると告げた時、
芙美子さんは大反対したそうだ。まあそれも不思議はない。
せっかく手に入れた仕事をみすみす逃すなんて大半の人はしないからだ。
「芙美子は、私が小説を書くのに向いていないと思っているんですよね」
「普通は安定した職業についてもらいたいと思うものだよ。
あたしだって、恋人ができたら大概は仕事を辞めないのか聞かれるよ」
「そういうものですかね」
「そういうもんだよ」
そういえば、祐治から仕事についてはなにも言われたことがない。
物と一緒で、祐治は仕事にも無頓着なのだろう。
祐治は仕事を辞めて、現状あたしの家に転がり込んでいるわけだが、
芙美子さんは変わらず祐治に連絡を取っては時々食事に誘い、
その度にプレゼントを持ってくるそうだ。
「定職についていなくても、身なりだけはきちんとしていなくちゃダメだって言うんですよ」
「ああまあ、いいことではないですか」
どうでもよくなってきて、ちょっと投げやりな返事をした。
「私としては、武士はくわねど高楊枝、ぼろは着てても心は錦と思っているんですけどねえ。
芙美子は錦を着てこその心だなんて言うんですよねえ」
わからないでも無い。
美しい人には美しいものを身につけてほしいと思っているのだろう。
いずれにしても、芙美子さんはなんとかして祐治を取り戻したいと思っているに違いない。
取り戻したいというか、そもそも祐治は芙美子さんのものではないのかもしれないけれど。
そこまで聞いて、あたしは新たな疑問を持った。
芙美子さんは大反対したそうだ。まあそれも不思議はない。
せっかく手に入れた仕事をみすみす逃すなんて大半の人はしないからだ。
「芙美子は、私が小説を書くのに向いていないと思っているんですよね」
「普通は安定した職業についてもらいたいと思うものだよ。
あたしだって、恋人ができたら大概は仕事を辞めないのか聞かれるよ」
「そういうものですかね」
「そういうもんだよ」
そういえば、祐治から仕事についてはなにも言われたことがない。
物と一緒で、祐治は仕事にも無頓着なのだろう。
祐治は仕事を辞めて、現状あたしの家に転がり込んでいるわけだが、
芙美子さんは変わらず祐治に連絡を取っては時々食事に誘い、
その度にプレゼントを持ってくるそうだ。
「定職についていなくても、身なりだけはきちんとしていなくちゃダメだって言うんですよ」
「ああまあ、いいことではないですか」
どうでもよくなってきて、ちょっと投げやりな返事をした。
「私としては、武士はくわねど高楊枝、ぼろは着てても心は錦と思っているんですけどねえ。
芙美子は錦を着てこその心だなんて言うんですよねえ」
わからないでも無い。
美しい人には美しいものを身につけてほしいと思っているのだろう。
いずれにしても、芙美子さんはなんとかして祐治を取り戻したいと思っているに違いない。
取り戻したいというか、そもそも祐治は芙美子さんのものではないのかもしれないけれど。
そこまで聞いて、あたしは新たな疑問を持った。