美しいあの人
「で、芙美子さんにはあたしのことは話したの」
「はい。ものすごく怒ってました」
なんて言ったんだろう……。
「つきあってるとかじゃないとは言ったんですけどね」
「……」
ああやっぱり。あたしも祐治にとってそういう存在ではなかったのか。
「だって、エリはとても大事な存在ですから。
彼女とかつきあうとか、そういう言葉で片付けられるようなものではありません」
どういうことだそれは。喜んでいいのか。
「私に取ってはエリは半身みたいなものですよ。とても大事です」
「喜んでいいのかどうかわかんない。
そんな大仰なことを言われるよりも、彼女だって言われた方が何倍も嬉しいような気がするし」
「そうですか? 芙美子にもそれはつきあってる彼女って言うのよ、って言われました」
あたしもその芙美子さんも、どうしてこんな訳のわからない男が好きなのだろう。
美しいからだろうか。
確かに、祐治のこの意味不明な面を知っても、あたしは祐治のことを嫌いとかイヤだとは思わない。美しいのに変な人だなあ、美しいから変なのかなあとぼんやりしてしまう。
「でもですね」
突然祐治があたしに向き直った。
「はい」
こちらも居住まいを正す。
「私は、エリと一緒にいたいんですよ」
「はあ、ありがとう」
訳のわからない話を聞かされて、あたしはちょっと混乱している。
「ですので、出て行けとか言わないでほしいのですが、どうでしょうか?」
「いや、出て行けなんて言わないよ。あたしだって祐治が好きなんだよ?」
「よかった。ありがとう」
「じゃあ、もらったもの処分してくれる?」
祐治の反応はなんとなく予想がついていたが、
一応メインでつきあっているであろう女としては言うべきことを言ってみる。
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