美しいあの人
「それでは着るものがほとんどなくなってしまうので困ります」
……そう言うと思った。
「物には罪がないわけですし。ほらそれに、私にとって芙美子は友人ですから。
なのでエリは気にしないでください」
「気にするな、って言ってもそりゃ気になるよ」
「気にしたら負けです」
そういうものだろうか。
二股をかけているのをうまくごまかされているような気分になる。
祐治があたしを抱きしめた。
「私がこうやって触れたいと思うのは、エリなんですから」
だからなんなのだろう。
抱きしめてくれている祐治が身につけているのは、
おそらくこれも芙美子さんがくれた服なのだろう。
大事だ一緒にいたい、必要だと言われて、そりゃあ嬉しいけれど、
あたしとしては「今はエリが彼女なのだからもう物はもらわない」
それだけ言ってくれたほうがよほど嬉しい。

ソファに押し倒されてそのままキスしてセックスへなだれこんだが、
なにか大事なことを置いてきぼりにしているような気がした。
それがなにかは、わからないけど。
あいかわらず祐治の顔は綺麗で、あたしの身体を触るその手も優しさに満ちていたが、
あたしはなんだか集中できなかった。
なにも知らない方が良かったかもしれないな、なんて思いながら、
ぼんやりしてはいけないと思ってあたしは祐治の背中にしがみつく。

 
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