聴こえる
8.紗和
「ただいまー!」
あのあと、リクエストBOXなるものを作成して部室ドア脇に設置して私達は解散した。
通学時間1時間半かかるが、部活で遅くなったため大急ぎで帰ると1時間程度で家についた。5月下旬とはいえ、暑かった。
私がリビングに入ると、妹の紗和が出迎えた。
「お姉ちゃんお帰り!」
「こんな時間に珍しいね。部活どうしたの?」
「今日は自主練だったし暑くて帰ってきちゃった!」
えへへと笑う彼女はまさに天使。紗和は蓉帝に通う高1で、体操の推薦で入学した。ぱっちりとした二重の目に栗色の髪の毛、明るくて誰にでも愛される彼女は私の自慢の妹だ。
「お姉ちゃんこそどうしたの?いつもより遅いよね」
「…部活、入った」
「うそっ?何部??」
私は着替えながら「放送部」と答えた。すると、紗和はにこにこしながら言った。
「そんな部活あったんだー!でも、お姉ちゃん声キレイだし向いてるかもねっ」
「ありがと!」
少し気分を良くした私は今日のデザートを妹に譲ろうと思った。
「お母さん、今日も夜勤?」
「そうみたい。夜ご飯、食べよっか!」
紗和はそう言うとラップのかかった料理を温め始めた。
家族4人が揃うことは滅多にない。お父さんは海外赴任。お母さんは看護師で最近は夜勤の仕事が立て続けに入って泊まりがけで帰ってこない。