大海の一滴
どうして?
何も、変わらないじゃない。
先生は見て見ぬ振りを続けた。
(私が小学校の先生だったら、絶対に見て見ぬ振りなんてしないのに)
「いってきま~す」
「はい、いってらっしゃい」
れいこは赤いランドセルを背負っていつものように家を出た。
真っ直ぐ進む。右に曲がる。もう一つ右に曲がって。この角を左。
そしたら。
その先にあるのは、学校という地獄。れいこの足取りが重くなる。
すたすたすた すたすた すた。
それから足は動かなくなった。
気が付くと、涙が流れていた。
れいこは近くの細い路地に入ってうずくまった。
(もうだめだよ。だれか、助けてよ)
声を殺して泣き続けた。
「大丈夫?」
誰かがれいこの背中を擦る。おばあちゃんみたいに温かい手。
「名前は?」
夏川、れいこ。
「年は?」
十歳。
「そっか。私はさち。私は小五で、れいちゃんは小四だから、一コ下なんだね」
同じ学校の子?
「どうかな。私、最近学校行ってないから」
行ってない?
「そう。学校なんて、行きたくなかったら行かなくっていいのよ」
顔を上げると、笑顔があった。