大海の一滴
「いってきま~す」
「はい、いってらっしゃい」
れいこは赤いランドセルを背負って家を出た。
真っ直ぐ進む。右に曲がる。もう一つ右に曲がって。細い路地に入り込む。
そこでみんなが登校するのを、じっと見送る。
キーンコーンカーンコーン。
(よし)
チャイムが鳴った。
れいこは路地を飛び出し学校とは逆の方向へ走り出した。
「おはよう」
コスモス畑の中でさちちゃんが笑う。
「おはよう」
れいこもにっこり笑う。れいこはここで、さちちゃんと一日過ごすと決めた。
「私、独り暮らしをしているのよ」
さちちゃんは海辺の小さな家に入っていく。
「本当はおばあちゃんと二人暮らしをしていたんだけど、今病院で入院しているの」
家の中は乱雑で、掘っ立て小屋のように狭かった。
「お昼はカレーでいい?」
さちちゃんが冷やご飯の上にカレーをよそって運んで来た。
黄色くあせた四畳半の畳の上にビール瓶のケースが逆さまに置いてあり、その上に薄いベニヤ板が乗っかっている。
「これ、私の彼氏が作ってくれたテーブルよ」
さちちゃんがにっこり笑ってどんぶりを置いた。
水道水をコップに入れて一緒に食べる。
味は良く分からなかった。
「彼、カレーが大好きなの。だから研究しているのよ」
さちちゃんは、今度紹介するわね。と微笑んだ。