大海の一滴

(どうやったら、こんな声が出せるんだ?)

 ある意味感心する。

 この子達は男心を簡単に操れるのだろう。

 そしてオレは、簡単に操られてしまうのだ。
ついボリュームを上げて彼女達の胸元に見入ってしまうのは、酔っ払っているせいに違いない。


『だよね、だよね~。彼氏と喧嘩とかしてても~、ホールのケーキとか出されちゃうと、もう許しちゃう~っていうかぁ』
『あたしも! やっぱ女子はみんな、スイーツに目が無いよね~』

「それだ!」

 パチンと、あまり鳴らない指を鳴らす。
 
 深夜番組もたまにはいいことを言うじゃないか。
美絵子もケーキを買って帰ると子供みたいにはしゃいで上機嫌になる。
 明日の朝早く、近くのケーキ屋へ買い出しに行こう。
美絵子は確か、モンブランが好きだったよな。

「これで一件落着だ」
 全て解決したような気がして、更にビールが美味く感じられる。

 プシュ。
 いつの間にやらの四本目。

(これを飲んだら終わりにしよう)

 南無南無と缶に手を合わせてから、達之はありがたくそれに口をつけた。
ケーキ屋の開店は九時くらいだろうか。
どうせなら評判のケーキ屋を探してみるか。パソコンを立ち上げ、検索用のホームページを開く。
「お! キャンピングカー特集だ」
 トップページの特集欄をクリックする。

 ケーキ屋を探すのはこれを見た後にしよう。

 考えながらビール片手にマウスを操作する。
「これ、格好いいけどちょっと高いな。中古車っていくらくらいだろう」

 美絵子の潔癖と虫嫌いのせいで、家族でキャンプはまだしたこと無いんだよな。これぞ男のロマンなのに。

「へぇ、レンタルもあるのか」
 手にした四本目もあっという間に空になり、ほぼ無意識に五本目のプルタブを開ける。


『君は、どうして妻の、綾乃の記憶を持っているんだ?』
『分からないわ。でもあたしの身体には、あなたとの日々が刻まれているの』


 深夜のテレビ、見るからにシリアスそうな男女のドラマが始まっている。


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