ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―
ミツは洋二の部屋の明かりがついていることを確認すると、
冬になってますますペンキの色あせた外階段を、
踏み壊す勢いで駆けあがった。

洋二の部屋のドアを、ドンドンと叩く。
「洋二!いるだろ?」
しばらく待った。
奥から洋二の歩いてくる音がして、ぼさぼさ頭の洋二が顔を出した。

「バイトって嘘かよ?」
洋二は舌打ちして目をそらした。
何も言わず部屋へ戻る洋二を追って、ミツも洋二の部屋に入った。

「何考えてんだ、洋二。」
「今日はサンタ以外、入室お断りだ。」
「バカか、おまえ。なんでわざわざ自分から羽月ちゃんとサトシくん
クリスマスに二人きりにするわけ?」

洋二は万年床に寝転がり、音楽雑誌を広げた。
「ミツも鈍いねえ。羽月はサトシくんと二人のほうが嬉しいだろ。」
「そうじゃなくて。おまえはどうなるんだよ。」
ミツは洋二の近くに座って、洋二を睨みつける。
「フラワーだって解散する。おまえこの先どうするつもりなんだよ。
おまえの大事なもん、どんどんなくなっちまってもいいのかよ。」

洋二は音楽雑誌をぱらぱらめくる。
「・・・だって・・・」
ミツはそこまで言いかけて、洋二はむくっと起き上がった。

「言ったって、しゃーねーだろ。」
ミツを見る洋二の目は悲しそうだった。
「このまま、なのか?」
ミツも悲しくなって、洋二に問いかけた。
「もっとさあ、必死になって、どうにかしたら、
どうにかなるもんじゃないのか?頑張ってんじゃん。
頑張ってんじゃんかよ・・・。こんな悲しいの、ねえよぉ・・・。」

ダメだ、泣きそうだ、とミツは弱くなる自分の言葉を吐き捨て、
うつむいた。

「わかんねーよ、思いついてたら、やってる。」
洋二もうつむいた。
洋二はミツよりも、もっと現実に近い場所にいる。
夢も、ミツよりもっと近い場所にある。
少なくともミツにはそう見えていた。
それが、もうどこにあるのかわからない。

洋二の部屋の蛇口も、ミツの部屋同様締りが悪く、
水滴がシンクを叩く音が響いた。
やっぱり大家の陰謀だ。

二人はしばらく、お互い無言のまま水滴の音を数えて、
クリスマスイヴが終わる頃、ミツは自分の部屋に戻った。
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