運命のヒト
まるで、触れようと手を伸ばせば、すり抜けてしまう幻。
幻は幻だとわかった瞬間、消えてしまうものだから――。
* * *
「おい。さっさと顔洗ってその寝ぼけたツラを覚ましてこい」
「……は?」
翌朝。出勤準備を整えたあたしと、目覚めたばかりのシロが、ダイニングでコーヒーをすすっていたとき。
突然の訪問者によって、平和な朝の空気は一変した。
「た、大我……! どうしたの急に」
ずかずかと入ってきた大我は、うろたえるあたしをスルーしてシロの真横に立つ。
そして、いきなりの質問。
「お前、仕事は?」