恋の魔法と甘い罠
『聴こえるかい?パパだよ』という言葉を。


そして、キスを交わす姿を。


でもそれを口にしたくない。


だって言ってしまえば、この関係は簡単に崩れてしまう。


――そんなの耐えられない。


そんなことを考えながらも、いつの間にか慎也さんの横顔をじっと見つめていたらしく……



「ん?なに?」



それに気づいた慎也さんがちらりと視線を向けてきた。


こうやって冷静に見てみると、その瞳は冷たくはないんだけれど特別温かくもない。


昨日奥さんに向けていたそれは、凄くやさしくて温かなものだった。


今さらだけれど、やっぱりあたしは遊びだったんだと実感してくる。


そう思うと、瞳の奥が、じん、と熱くなってきて、涙が少しずつ込み上げてきた。
< 45 / 357 >

この作品をシェア

pagetop