恋の魔法と甘い罠
その言葉で、さっきの慎也さんの言葉を思い出した。



『予定ある?』


『ないなら行くから』



それに対して予定がないとは言わなかったけれど、来ることに対して「はい」という返事もしなかった。


こんな風に曖昧に交わした約束は今までに一度もない。


いつも即答で『待ってます』と答えていたから。


だから、今日の約束はあるのかないのかわからなかった。


だけど、和泉さんとあたしが待ちあわせの約束をしているのを聞いていたから……きっと、うちには来ないだろうと思う。


慎也さんはこんな曖昧な約束を守る必要はないんだ。


だって、帰る家があるんだから。


そこには、愛する人が待っているんだから。


そう思うと、あのときの……慎也さんの家の庭で見かけた二人の姿が脳内に浮かび上がってきて、目の奥が熱くなってきた。


歯を食い縛って堪えるけれど、全然堪えきれなくて。


じわりじわりと涙が顔を出し始めて、視界が歪んできてしまった。
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