偽りの恋人
ぺこりと一礼して課長のブースを出て、自分の机に戻る。
今日はほとんどの社員が定時で帰ったらしく、残っているのは私を含めて2、3人だった。
元々残業は少ない会社だし、当たり前の光景といえば当たり前の光景なのだけれど。
ガサガサ、と帰り支度をしていると、「原」と後ろから呼び掛けられた。
「大野くん」
「原も残業?真面目だね」
「今日中の書類があって」
課長のせいでね!、とは後ろの課長が怖くてさすがにここでは言えないので、言葉をそこで止める。