記憶の向こう側
私は出そうになった涙を引っ込めて、声を絞り出した。
「あの…、私、行かなきゃ。」
顔を上げると、彼は申し訳なさそうな顔をしていた。
「ああ。頑張ってな。…何か、ごめんな。」
「…え?」
ごめん…って?
「その…気ぃ悪くしたろ?思い出させて。忘れてくれ。」
「あ…いえ…。気にしないでください。」
そう言って…それから続く言葉が思い付かなくて、そのまま私は勝手口から旅館の建物の中に入った。