甘い罠
まだ瑠璃には話していなかったが、木村が入院している間、毎日のように警察が事情を聞きにやってきた

木村の事故のことじゃなく、杉山の件で、だ

何度面識がないと言っても、根ほり葉ほり同じようなことを聞いてくる警察には、ほとほと参った

周りの同僚にも、普段の木村の勤務態度から、交友関係まで、あちこち聞いて回っていたことも、後で耳にした

警察の何人かは、お前が突き落としたんだろうというような目で木村を見ているように感じた

殺人の容疑者のように思われていると考えると、夜も眠れないほど木村は辛かった、


木村はあの日、誰かに突き飛ばされた記憶が確かにあったけれど、とてもじゃないが警察に話す気にはなれなかった


今、そんなことを自分が言い出したら、誰かに罪をなすりつけようとしているとしか思われないだろう、と木村は察していた


実際、木村が転落したと思われる時間の前後、何か怪しい人影を見たなどの情報も一切なかった

でもそれは、警察も杉山の事故にばかり気を取られ、木村の事故の方は、それほど念入りに調べられなかったせいもあるのではないか、と木村は思っていた

むしろ木村が転落したのは、杉山を突き落とした事実を隠ぺいする為に、自ら階段から転がり落ちたのではないか、という見方をしている警察さえいたことも、木村は知っていた

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