甘い罠
中華料理店を出て、木村は車を走らせていた

紅葉を見に行こうと、隣町の公園に向かっていた


木村は、あの事故で1週間ほど入院したのだが、退院してから、自分が少し記憶を失っていることに気付いた

退院の際も、身の回りの片付けをしてくれる人がおらず、木村はほとほと寂しい思いをした

もうかれこれ2年ほど浮いた話はなかった

30代に入り、どんどん責任を任される仕事が増え、彼女が出来てもなかなか相手してあげられる時間は取れなかった

2年前に別れた彼女とも、木村の仕事の忙しさから、すれ違いが生じたことが原因だった



大学在学中、両親を事故でいっぺんに失った木村は、アルバイトをしながら学費を工面し、なんとか卒業した

一人っ子だったこともあり、誰も頼ることが出来なかったが、その分、一人で生計を立てていく厳しさを、若い内から身に付けたのだった


これまで、がむしゃらに仕事をしてきたが、今回のことで、初めて結婚したいと痛感した

大した怪我ではなかったが、今回の事故は、色んな面で木村を精神的に追い詰めた
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