二秒で恋して
 会社を出たら、いきなりの土砂降りだった。

 まさかあの国立と二人で残業だなんて、ついてない。

 そんな気分でやっと終えた残業の後が、またこれだなんて。

 傘を持っていてもずぶぬれになりそうなひどい雨に、途方にくれていた私の横で、彼は笑ったのだ。

「こりゃあ、もうあきらめるしかないですね」

 その妙に明るい声がどういう意図で発されたのか、疑問のまま見上げた私の手を、いきなり強い力で引っ張った彼。

 問答無用に雨の中に飛び出す形になって、そのまま走り続ける。

 ただパニックで、抗議の声もあげられずにひたすら走った。

 そして止まったのは、どこかのマンションの前。

「ここ、俺ん家なんです」

 そう言われて目を丸くする私を楽しげに見て、またも手を引っ張っていく。

 エレベーターに乗せられてから、我に帰ってその手を振り払ったら、にやにやと笑う彼。

「いいんですか? すっごいセクシーなことになってますけど」

 そう指差されたのは、自分の白いブラウス。雨に濡れて張り付いて、下着が完全に透けていた。

 急いで体を守るように腕を回した私を見つめてから、彼はすました顔でエレベーターのボタンを押して、閉めてしまったのだ。

 雨が止むまで雨宿りしたらいい、とか、着替えを貸すから、とか、色々と並べられた言葉を信じた私が馬鹿だった。

 まさか、いつも笑ってるだけの情けないただの後輩が、急に本性を現すなんて思ってもみなかったのだから。
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