二秒で恋して
 そして今日も私は、こうして怒鳴っている。

 散々彼が凡ミスを繰り返すのが、わざとなのか、そうでないのかは、未だに謎だ。

 でも立場上説教しないわけにはいかない。

 それに二人のことを気づかれないためにも、私は厳しい先輩でいなきゃいけない。

 決意を新たにまた説教を始める私に、一真は相変わらず情けない笑顔を返す。

 それでも最近その眼鏡の奥で、彼の瞳がいたずらっぽく光る瞬間が、どうにも増えたような――。

 ふと言葉を止めた私に、一真は大きな声で「あれ~?」と言った。

 わざとらしく私の少し立てたシャツの襟を覗いて、全員に聞こえるほどの声で言ったのだ。

「ミズキさん、悪い虫にでも刺されたんですか~? なんかすげー赤くなってますよ」

 言われてあわてて首筋を押さえた私に、ちょうど近くにいた女子社員たちが集まってくる。

 隠そうとする私の手を何気に押さえて、大げさに検分する一真のせいで、皆の注目を浴びてしまった。

「あ~ミズキさん、それってまさかキスマーク?」

「嘘、ミズキさんが? お堅いと思ってたら、意外とやりますね~」

 そんな声に囲まれて、止めようもなく頬が赤くなっていくのがわかる。

「ちっ、違うってば! これは虫に……」

 あわてて弁解する私に、一真は平気な顔で笑った。

「近頃の虫は、ひどい刺し方をするもんですね~これ、本当に見れば見るほどキスマークみたいだもん。気をつけたほうがいいですよ、ミズキさん?」

 にっこりと害のない顔をして肩を叩いた一真に、私は頭の中で吼えていた。

 ――この二重人格! 誰がつけたか、言ってやろうか?

 自分で思ってから、昨夜の彼を思い出してまた赤くなる。

 いつか絶対立場を逆転してやる、と心の中で誓いつつも、勝負が難しいのはわかっていた。

 だって、彼のあの瞳には、やっぱり勝てないんだもの。

 ため息をもらしながらも、そんなのも悪くない、なんて思ってしまっている。

 だって今夜も、きっとまた恋に落ちるから。

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