ゆすらうめ
「時を司るもの」
──春を迎えたばかりの、心地よい日射しを感じた。
京都での勉強合宿を終えて、今日は最終日の待ちに待った自由時間。
しかし、別段したい事もないし、すべき事もない。
きっと同学年の女子からしたら、至福の時であるのお土産タイムなのだろうが、私は桜の木を眺めながら休めるだけで十分だと思う。
桜の木がよく見える位置に、丁度いい石を見つけて腰を掛けると、ふっと、先ほど買った物を思い出す。
鞄から『山桜桃こんぺいとう』と書かれた小さな缶を取り出して蓋を開けてみた。
…結構入ってるっ
予想以上の金平糖の数に、感激して少し胸が高鳴る。
小指の先程もないのではないだろうか。
そのくらいの大きさの可愛らしい濃い桃色の金平糖は、私は始めて見るものだった。
だから、つい好奇心に負けてしまって、今掌の上にあるのだ。
そして二本指で一つだけつまみ出し口に運ぶと、甘酸っぱい味が一瞬で口の中で広まった。
「……。」
なんだろう…これ…
周りの視線さえも忘れて、呆然とした。
何か、懐かしさと切なさが入り混じるような感情が溢れる。
始めてのはずのこの味に、胸が熱くなる。
「──真桜…?」
未だ体を石のように固めたままの真桜(まお)の横に、何時の間にか、不思議そうに綺麗な顔で覗き込む藤香(ふじか)が腰掛けていた。
ハッとして沈んでいた顔を上げ、無駄な心配をさせないように微笑もうと目を細める。
「だいじょ……あ…」
目を細めた瞬間、頬を冷たいものが伝う。
「えぇ?!ちょ、大丈夫?」
「あれ…なん、でだろ…っ?」
出どころの分からない苦しさに戸惑いながらも、どんどん胸に込み上げてくる切なさと愛しさに同調するようにぽろりぽろりと止まらない涙。
なんなんだろう…
懐かしい、
悲しい、
切ない、
苦しい、
……愛しい。