ゆすらうめ
……真桜が壬生寺に来る少し前のこと。
ガサガサと木々をかき分けて、一人の青年とも美女とも取れる麗人が、子供が飛ばしてしまった鞠を探していた。
その姿は現代のものとは到底思えない着物に刀と、見慣れない格好。
「うーん…こっち飛んだと思ったんだけど」
今日は非番で、甘味でも食べに行こうとしていた所、近所の子供たちに捕まってしまったのだ。
そして少しだけならと鞠で遊んでいたら、一人の子が遠くへ鞠を飛ばし過ぎて、この木々の生い茂る場所に隠れてしまった。
申し訳なさからかその女の子が泣き出しそうな顔をさかたのを見て、自分自身が探しに行くと名乗りでたものの、中々見つからないのだ。
「あー…」
自分もなかなか、子供に甘い。というより弱い、か。
もしも頼みごとをしたのが土方さんで、それも私情だったら、今頃甘味を満喫しているだろう。
「ふぅ…」
こんなに何か見つからないなんて久しぶりだ。
一体鞠はどこへ消えてしまったというのだろうか。
ふっと、甘酸っぱい香りが鼻を掠めた。
「山桜桃の木の近く…?」
屯所の中庭にも植えてある、桜にそっくりな木。
毎日感じている甘酸っぱいこの香りを、間違えることはない。
香りの強い方へ、地を踏みしめ進む。
「あ、…っ」
あった。と口にしようとした言葉を飲み込む。
足元に転がる鞠を音を立てずに拾い上げる。
…誰かいる。こんな所に、何故…?
不審に思いながら、念のためにそっと近くの茂みに身を隠す。
再び目を向けて見ると、そのおろおろしている人物は女子だと分かる。
見たことのない格好。
…異人?
正体の分からない彼女に、不思議と自分の胸の脈打つ音が早まるのをかんじた。