秘書室の言えなかった言葉
「知里、仕事終わったか?」


英治は自分のデスクに向かいながら聞く。


「うん、終わったよ」

「なら、帰るか」


私もデスクの上を片付け、帰り支度をする。


「なぁ、知里……。そこ、どうした?」

「どうした、って?」


英治がなんの事を言っているのかわからず聞き返す。


すると、


「ここと、ここ。赤くなっている……」


英治は私の首元にそっと触れながら言う。


虫に刺されたのかな?


私は鞄から鏡を取り出そうとする。

でも、英治の触れるその場所って……

そして、その首元に赤い跡……


もしかして、さっきの!?


私はハッとする。

その瞬間、


「これ、どうした?」


英治はガシッと私の腕を掴み、低く怒ったような声で聞く。

私はとっさに掴まれていない方の手で、首元を隠す。


絶対、さっき誠司に付けられたんだ。


私の態度で気付いたのか


「佐伯さんかっ!佐伯さんに……」


英治は私の両肩を力強く掴む。


「英治、痛い……」


その強さに、少し痛みを感じ英治に伝えたが


「どうなんだよ!」


怒っている英治には、私の声は聞こえていないみたい。

そして、英治は掴んでいる私の両肩を力強く揺らす。

英治がこんなに怒っている姿は初めて見る。

私が怒らせているのだけど。

これ以上、英治を怒らせたくない。

私は、怒っている英治から視線を逸らさず、ちゃんと見ながら


「……多分、さっき……」


そう答える。


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