秘書室の言えなかった言葉
「あっ、待って……」


スーツのジャケットの裾を掴まれた。

俺が振り向くと


「あっ、すみません」


とっさに取ってしまった行動みたいで、その子は恥ずかしそうに顔を赤くしていた。


「いえ、いいですよ。それより、どうかしました?」


その子に尋ねてみると


「あっ、あの……。私……、倉木さんの事が……」


顔を真っ赤にしながら俺を見ている。


あぁ、告白か……


そう悟った俺は、いつものように断ろうとした。


が、


「好きでした」


えっ?


「あれ?」


俺も驚いたけど、その子も自分の言葉に驚いていた。


今まで「好きです」は、何度も言われた事があるが、「好きでした」と言われたのは初めて。

もし、「好きです」と言われていたら断っていた。

だけど、今、この子が言ったのは「好きでした」。

だから、


「ありがとう」


俺は笑顔でその言葉を受け取る事にした。


それをアイツに見られていたなんて。

俺は、全く気付いていなかった――…


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