秘書室の言えなかった言葉
「あの子には“好きでした”って、言われただけだよ」

「へっ?」


俺の言葉に園田は顔を上げる。


“わけがわからない”

そう言っているみたいな表情をして。


「だから、俺、彼女なんていないよ?」

「そ……、そうなんだ……」


ずっと、俺の事なんて、何とも思っていない

そう思っていた。

だから、まだ、気持ちを伝えるつもりなんてなかった。

だけど、さっき喫煙ルームで会ったあの子のおかげで、園田の気持ちが知れた。

園田が俺の事を好きとわかってから、自分の気持ちを伝えるのは少しずるい気もするけど……

でも、今がチャンス――…



「だけど、“彼女になって欲しい人”はいるよ?」


俺は、まっすぐ園田を見つめながら言う。

そして、黙り込む園田に


「誰だと思う?」

「……わかんないよ」


そう言って、園田は顔を背ける。

その瞬間、俺は園田の腕を掴み、グイッと引き寄せる。

そして、力強く抱きしめ


「園田……、お前だよ」


耳元で、そう囁いた。


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